一通りの買い物を済ませた後、書店に寄ってみることにした。
特に欲しい本があるわけではない。
店主には申し訳ないが、この前出展した展示会の総評を立ち読みしようと思っただけだ。
美術雑誌をパラパラとめくり、展示会の総評記事にだけ目を通す。
特別優秀賞、優秀賞、大会特別賞、大賞、特別審査員賞、知事特別賞、スポンサー特別賞、ナントカ賞、相変わらず賞が多すぎて優劣がよくわからぬ。
ただし、そのどれもが自分に与えられたもでない事だけはわかった。
自信のある作品ほど余り評判が良くなく、さほど思い入れの無い作品ほど評判が良かったりするが、今回は前者である。
ところで、この特別審査員長とやらの名前の響きに覚えがあるが、まさか予備校時代の後輩ではないか。
やはりそうだ、ご丁寧に顔写真まで添付してある、こんなだらしない笑顔の持ち主はやつ以外におらぬ。
壊滅的に絵の才能の無い男だったが、人たらしで世渡り上手な男だった。
結局三浪して受験を諦めたところまでは記憶しているが、その後の行方は今日の今まで知らなんだ。
やつが特別審査員長。
人生とはこんなものなのであろうか。
店主の冷たい視線を感じながら、さも目当ての本が見つからなかった様な顔をして店を後にした。
妙に腹がムカムカするのは、きっと昼に食べた安い弁当のせいである。
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