生きる。
ただそれだけのことに酷く疲れる人が多い。
果たして私もその一人だろうか。
人はなぜ生きるのか。
四畳半の天井にへばりつく名も知らぬ虫にそんな問答を繰り返している。
虫は何言も発さない。
おまけに此方に背中を向けつつ、細い足でポリポリと腹を掻いて見せる。
「とうに解は得ておる、我を見よ」とばかりに。
悩みとは、身体の輪郭をなぞるが如く、持ち主の大きさに比例して膨らんでいくものだ。
だからこそ虫や赤子は素直に生きていられる。
いっそわたしも虫のように暮らしてみようか。
いざ!と天井にぶら下がろうとしたが、成長し過ぎた身体の重さ、いや、悩みの重さに耐えきれず、四畳半の天井はわたしを道連れにして床へ崩れ落ちた。
「虚しい」
舞い上がるホコリがあざ笑う様にわたしの視界の中で踊り続けている。
ふと窓に目を向けると、青い春の空にあの虫が溶けるように去っていくのが見えた。
わたしも自由になりたい。
悩みなきあの色の向こうへ連れて行って欲しい。
©2023 MuedShi